プロローグ
高校の門を出たところで、誰かに右わき腹を刺し貫かれた。
痛かった。門の影に、誰かが潜んでいたのなんて、全然気づかなかった。
友達が家に遊びにくる約束があったから、早く家に帰って、部屋の掃除をしようと思っていたのに。
「な、んで」
彼女は門から出たすぐのところに、うつ伏せに倒れた。右わき腹の後ろから、中が燃えるように熱い。息が苦しかった。誰が彼女を刺したのか。まだわからない。姿が見えない。けれどすぐそこに、立っているのはわかった。影で、彼女が倒れているアスファルトが、暗い色をしていたから。
それはゆらりと動いて、校舎の方へと、歩いていくようだった。
無差別殺人者なのだ、と咄嗟にひらめいた。殺されるほど悪いことをした覚えがなかったから、当たっているだろう。熱いお腹を、彼女は無意識のうちに抑えていた。抑えていないと、中身が溢れだして、出てきてしまいそうな気がしたのだ。
もうその時、抑える手の圧力に、身体は痛みを覚えていなかった。
だから不思議と、勇気のようなものも出てきたのだろう。
「人殺しぃいいいい!!!!」
生命のすべてをかけた、叫びだった。
彼女を刺した人を非難するための言葉でも、彼女が恐怖に駆られたわけでもない。
これから門をくぐって帰るために、こちらへ向かっている学友たちを守るための、警告の雄叫びだった。
届いたのかはわからない。
叫び終えたあとの一呼吸の直後、彼女の意識はふつりと途絶えてしまったからだ。
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