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第二章ダイジェスト後半


 デザイートスという傲慢な貴族の屋敷で起こった事を、リールとディータ、そしてギルドマスターに洗いざらい説明した。――けれど、ギルドマスターにはどうやら信じてもらえなかったらしい。
 レベルアップというものは、常人には起こり得ない超常現象。
 だから、エリーゼは夢に夢見る女の子だと思われたのだ。

 本当にそうだったらよかったのに――精霊はエリーゼに新たなクエストとしてレベル上げを課してきた。
 精霊エシュテスリーカは、どうしてそれが必要なのか教えてくれない。
 だけどエリーゼはそれほどエシュテスリーカに対して嫌悪感を抱かなかった。何故なら、エリーゼがレベル上げをしないとエリーゼだけでなく、彼も死んでしまうらしい。

 それなら同じ苦難に立たされた同志と言えなくもない。他者であるエリーゼに問題の基幹を握られているエシュテスリーカの方が気の毒なぐらいだ。
 だから、もしレベル上げとやらが必要ならば、エリーゼはやるつもりだった。何よりも自分のために。
 ……だけどそもそも、レベル上げの仕方がわからない。





 エリーゼが今後の方針に迷っていると、フィンが屋敷へやってきた。彼はいつになく浮かれていて、その成果をエリーゼに披露したがっていた。
 フィンが紹介したのは、エリーゼが特許を出したトランプの恩恵を掠め取る三商会の内の一つ、エリーゼを脅かした悪魔信仰者たちを町に招き入れたと思しい商会の次期代表を務める青年マルノと、その妹ハルアだった。

 かつてバターレイ近郊の貧民街で暮らしていた彼らは――特に妹のハルアは、バターレイにちょくちょくちょっかいをかけていたエリーゼに対して感謝と敬愛の念を抱いているらしかった。

 「エリーゼ様――私がエリーゼ様に感謝しているということは、つまり、ソマリオラ商会はエリーゼ様のものだということです。おわかりですか?」

 そう言うハルアはエリーゼのことが好きだというけれど、エリーゼにはよくわからなかった。ただ、滅多にない貴重な友達ができたのが嬉しくて、エリーゼは彼女の存在を受け入れた。
 兄マルノが代表に就任する際には少しごたついたけれど、どうにか丸く収まった。





 エリーゼを脅かした悪魔信仰者を町に引き入れたと思しい三商会は、ビスタ、ソマリオラ、ディアストールの内のどれかか、又は二つか、すべてだった。
 だけどその内のビスタは違うようだし、ソマリオラの代表とその妹はエリーゼの味方である以上、残るはディアストールだということになる。

 対抗する手段も見当たらないまま、屋敷でくすぶっていたエリーゼのところへ、リールが朗報を持ってきてくれた。
 なんとこの町のバターレイにお忍びで妖精がやってきていて、エリーゼと会ってくれるという。妖精なんていうファンタジーな生き物と会える喜びに感動しながら、エリーゼはバターレイへ向かった。
 そこで出会った妖精は、小学生ぐらいの子供の姿をした、淡く光っていること以外は人間と見紛うような生き物だった。

 妖精は人間よりも精霊に詳しく、エリーゼがアールジス王国を出るためのヒントになることを教えてくれるという。

「……確かこの国の精霊は曖昧だけど千年くらい前からぼんやりこの国の守り神たぶん」

 妖精は人間の大人に対しては頑なだけれど、バターレイの子供に対しては打ち解けて、商売なんかをやっているらしかった。
 ただ、成人しているエリーゼを前にしても、エリーゼが勇者の子だと知ると、とても好意的だった。

「私は勇者の子の味方!勇者の味方なんでも聞いて!答えるよ守護精霊?ジス精霊は人と共にいるとジスみたいに早く薄くなるボケる」
「ボケる?」
「人間で言うなら。そんな感じ精霊は老いない。私たちもだけどただ薄くなっていって私たちは殻が残るけどやがて消える精霊は何も」

 精霊は人と関わると薄くなり、ボケてしまうという。
 だからといって、精霊は長命だから、エリーゼをこの国に留めようとする国家の守護精霊もそうそうすぐにはぽっくりいかない。

「でもボケてる。薄いから誰を守っていたのか好きだった人間の血もわからなくなってる薄まったから」

 妖精は憐れむように言う。

「ジスに誤解させるの。可哀想だけど|守られる立場の人間だと。《しかたない》|たぶん王家に伝わってる《儀式か何かをする》」
「それが何かは……」
「わからないぜんぜん」
「だよねー」

 エリーゼは以前、町から出ることすらできなかったが、今はアーハザンタスから出ることができる。けれど今でもアールジス王国から出ることはできない。エリーゼはタイターリスというこの国の第一王子によって、サフィリディアという妃候補にされているからだ。

 だからエリーゼがこの国から出るために、タイターリスを説得できないのなら、精霊をどうにかしなくちゃいけない。
 不可能だとは思わなかった。そのために、フィンと相談していたら、エリーゼたちはとんでもないことに気がついた。

『キミ、もう守護精霊ジスの寵愛の印を持ってるじゃない』

 ヒントを求めたエリーゼに、精霊エシュテスリーカはそう答えた。
 探してみると、それはこの国で最もエリーゼをこの国から取り逃がしたくないと思っているはずのアールジス王国第一王子ハーカラント――別名タイターリス・ヘデン反逆の狼煙がくれた【守護精霊の加護の証】という、王宮内探索許可証のようなものだった。

「バカだなー、タイターリス」

 それが精霊ジスを誤解させるためのアイテムで、そのおかげで、王族でもないフィンが妃候補であるエリーゼに触れることができてしまった。
 つまりエリーゼはいつでもこの国を出ることができる。
 ――けれど、踏ん切りがつかないでいた。





 勇者ステファン。
 つい最近まで不仲だった美貌の兄は、辛く苦しい修行に励んでいるらしい。
 また、エリーゼは精霊の呪いバッドステータスに苦しむ同志である第一王子タイターリスのことも嫌っているわけではない。

 彼らを置き去りにして町を――国を去るのは、エリーゼとしてはなんとなく気が咎めた。





 ――だけどきっと、そんな必要はなかった。
 ステファンのことはとにかく、タイターリスにそんな気配りなんていらなかった。

 迷宮に異変が起きて町に魔物が湧きだした。アールジス王国は混乱し、宛てがある人、余裕がある者たちから順番に国を逃げ出して行く。
エリーゼは国の中枢にいるタイターリスから情報を得るため彼に会いに行った。
 そこで、彼と彼の弟の会話を盗み聞きしてしまった。

「下男下女たちのほとんどは外へ逃がしたとはいえ、既に後宮のエディリンスは食事を制限されています。彼女たちをせめて、故郷に返してやってはいかがです?」
「彼女たちは貴重な精霊の呪いバッドステータス解除のための手掛かりだ。安全なときに街を歩かせて逢引きをさせるのぐらいはいいが、解放はしない」
「死なせるつもりですか?」
「死なない程度に助けるさ」

 そう口にするタイターリスの声音に罪悪感の色はない。
 エリーゼは彼を誤解していた。
 きっと彼は初めからそういう人だった。
 ……恐らく、ほんの少し前までのエリーゼは、彼と同じような種類の人間だったのだろう。この世界の全てを現実の、かけがえのない大切なものだと考えることが難しかった。

 タイターリスに気兼ねする必要なんてない。
 エリーゼは少しずつ動き出した。とりあえず友人であるソマリオラ商会の代表の妹、ハルアに会いに行ったけれど――彼女はエリーゼが頼るのも憚られるほど疲弊していた。
 魔物は普通の人々にとって、脅威なのだ。この世界の人間の根底には、恐怖の楔が打ち込まれていて、精霊の恩恵ギフトで守られていない人々を脅かす。

 エリーゼには意味がわからなかったけれど、一つだけ理解した。
 つまり、友達には、頼れない。





 次いでエリーゼはバターレイのフィンのところへ行った。

 幼い頃から協力体制を取ってきた、友達でも仲間でもない、取引相手。
 エリーゼはそこで初めて、フィンとフィンの仲間たちが窮地に陥っていたことを知る。バターレイという街路の井戸が一時涸れていたという。だがすぐに他の場所から湧きだしたそうだ。だが、それは結果論。

 彼らは彼らで大変そうで、エリーゼが新しく頼み事をできそうな雰囲気でもない。そうしようとも思えなかった。
 だからフィンにも頼れない。





 またエリーゼの侍女が一人いなくなった。
 前に亡くなった侍女も、エリーゼを狙う悪魔信仰者の一人だったという。
 そして今回またエリーゼの味方のふりをしていた少女が一人死んだ。

 エリーゼは悪魔信仰者をおびき寄せる餌として扱われていた。エリーゼをそんな風に扱った侍女フィーリは勿論、おびき寄せられた侍女たちのことをどうして信頼できるだろう?
 後宮のゴタゴタに関する一番の被害者である、毒を飲まされたシーザのことは疑っていない。

 けれど、後宮は心から信じ合える仲間を作る場所ではない。
 だからエリーゼは、端から侍女に助けて欲しいとは思わない。




 
  だけどもう、王子様にも頼れない。

 本来頼れるような存在ではないけれど、エリーゼが冒険者となってより一番の助けになってくれた存在だ。
 けれど彼はエリーゼとは価値観が違ってしまった。
 一応、エリーゼは心にかかっているバターレイにいるフィンと孤児たちを助けるようお願いしてみたけれど、言葉が通じている気がしなかった。

 けれどエリーゼは、できることをした。
 ――その報いをそう遠くない内に受けることになる。





 魔物はどうやらバターレイに集まっている。そこには身よりのない孤児が集まっている。彼らには何故か町から出られない呪いがかけられている。
フィンたちを見捨てて逃げることなんてできないエリーゼは、とにかく彼らのために動き出すことにした。
誰も助けになってくれなくても、弟だけは――リールだけは助けてくれるとエリーゼは屈託なく信じていた。
 だけど、リールは魔族らしい。
 そして魔族はより上位の魔族に無条件で従う習性を持つ。
そのせいで、エリーゼと父アラルドの意見が食い違った場合、リールはエリーゼよりもアラルドを優先することになる。

 エリーゼはぽつんと一人取り残され、不思議とそれほど傷ついていないことに首を傾げつつ、一人で動き出す他なくなった。

 やがて、孤独な戦いが始まるかと思えたけれど……奇妙なことに、失うものもあれば得るものもあるらしかった。

 エリーゼは慮外の協力者を得ることができた。
 金で雇った冒険者たちは、エリーゼの感覚では支払った金銭以上のものをエリーゼにくれたような気がした。
 それに、王立学問所という仰々しい図書館のような施設の、見ず知らずの女性がエリーゼの先行きを応援してくれた。
 そして、冒険者なのに、無償でエリーゼの力になりたいと言ってくれる人まで現れた。
 エリーゼが頑張っているその姿に好感を持ったのだと言う。
 エリーゼは舞い上がって喜んだ。
 ――そんなエリーゼの元へ報いがやってくる。





 タイターリス・ヘデン。
反逆の狼煙という意味の別名を持つ、アールジス王国の第一王子ハーカラント。
 彼はエリーゼの持つ力を安全な場所で確保するために、バターレイまでエリーゼを迎えにやってきた。そこで、彼は知る。

 バターレイの孤児たちにかけられた呪いは、彼のような王子を生かすための忠実な奴隷を作る呪いだったのだ。
 バターレイの孤児たちが背負った運命を、彼は笑って受け入れた。利用しがいがあるとさえ考えただろう。彼は口にはしなかったが、エリーゼも理解した。
 エリーゼにはとうてい受け入れることができない価値観だ。
 エリーゼが運命に抗おうとする姿を憐れみをもって見下して、彼らは孤児たちを一切省みず、彼らを有用に利用することを決めていた。

 エリーゼの親切心が、バターレイを追い詰めた。
 王子様は敵に回った。
 だけど、だからこそ――エリーゼは諦めない。





 王子様と王子様がやがて後を継ぐことになるアールジス王国。
 その王国の重鎮たちを安全に逃がすための囮として確保されている、知り合いの子供たち。
 エリーゼにとって大事なものは、はっきりしている。
 だからエリーゼは選んで、行動を開始した。
 子供たちを町から逃がさなくてはならない。そのための障害はいくつかあるが、何よりの障害はアールジス王国の守護精霊ジス。
 彼が子供たちにかけている精霊の呪いバッドステータスのせいで、子供たちは町から出ることさえできない。

 だから、できるのであれば、一番手っ取り早い解決策は、精霊を排除することだろう。
 普通の人は選択肢にすら挙げない方法だけれど――エリーゼには、それが困難なことはわかっていたけれど、不可能なことだとは思えなかった。
 エリーゼにとって、精霊はよくも悪くも身近すぎる存在だった――。

 まず手始めに、冒険者ギルドで子供たちを外へ逃がすための馬車の手配をしてもらうついでに、精霊の御代という、基本的には不定形な存在である精霊が現世によりどころとして形作っている水晶体にて実験することにした。
 エリーゼの脳裏にあったのは、以前、魔族である父アラルドの力を恐れて逃げた大聖堂の精霊の御代たちのことだ。彼らはアラルドの――魔族の魔力から逃れようとした。
 そして砕け散り、しばらく精霊たちは大聖堂で力を使うことができなかった。

 エリーゼは、その身体に内包する魔族の血によって作られる魔力を手に纏わせて、冒険者ギルドの精霊の御代に触れてみた。
 そうしたら、精霊の御代は軋んだような音を立てた。

 次に、エリーゼはサフィリディアという妃候補である故の特権を使い王宮の中に入り込んだ。そして、力ある言葉でアールジス王国の守護精霊ジスの名前を呼ばわった。
 古代語で、古代星ルーン語で――古代魔ルト語で呼べば、彼のいる場所へ、言葉に込められた力が向かっていくことがわかる。
 だからエリーゼは、すぐに彼の居場所を突き止めることができた。

 王宮の奥に、巨大な精霊の御代の据えられた、社があった。
 社の中には濁った精霊の御代があった。手荒な手段に出る前に、まずはお願いをしてみたけれど、守護精霊ジスは答えてくれなかった。
 だから、エリーゼは精霊の御代を壊すことにした。
 精霊とは相反する魔族の力を手に纏わせて、エリーゼは渾身の力で精霊の御代へ拳を叩きつけた。





 エリーゼは守護精霊の御代を恐そうとして、どういうわけかジスとの邂逅を果たした。
 ジスは御代を壊そうとしたエリーゼを勇者であったアイリスと間違えていて、意外と友好的だった。
 彼は古の約束によって、次の勇者が生まれるまではアールジス王国を守らなくてはならないという。
 ――勇者の妹エリーゼは、早く消え去り大好きだった初代王ジスタルの元へ逝きたいと願っていた守護精霊ジスに、既に勇者ステファンが生まれているという事実を教えてあげた。
 本来、勇者が生まれた時点で王家の人間がジスにその旨を伝え、ジスを守護精霊から解放するはずだったらしい。
 だが、そうはならなかった――ジスは真実を隠していた現王家に対して怒り狂い、精霊の御代は砕け散り、アールジス王国を守っていた魔法は解けた。
そして、アールジス王国は急速に滅びの道を辿ることになった。

 エリーゼは自分のやったことを後悔してはいなかった。
 だけど――迷宮の外、どこからでも魔物が湧きだすようになった国の中、目の前で襲われている人を見たら、それが例え自分に危害を加えようとした男――デザイートスであっても見捨てることはできなかった。
 彼と共に王宮から逃げ、彼を古い魔法によって守られているという彼の屋敷へと送り届けてやり、「やることがある」からとその場を去ろうとするエリーゼに、かつてエリーゼを公衆の面前で襲った男は不器用に懇願した。

「やることとやらが終わったら、すぐにここに戻れ」

 居丈高な命令口調。彼はそういう言い方しかすることができないらしかった。

「ゆ、許さないからな……貧しい暮らしをすることになるぞ。二度と出世なんてできないからな……みんなにバカにされるんだぞ……!」

 エリーゼは魔法で守られた彼の屋敷に入るための招待状を貰ったけれど、使う気にはなれなかった。

「なんで、なんでだよ……どうして僕を置いて行くんだよ……!?」

 理由を訊ねるような言葉を口にしながらも、おそらくデザイートス自身も理解している様子だったのが、気の毒に思えた。





 何もかもがエリーゼの思惑通りに行ったわけではない。
 守護精霊ジスの御代は粉々に砕け散ったはずなのに、まだバターレイの子供たちの精霊の呪いバッドステータスは解けていなかった。
 魔物が溢れるバターレイの町を出たはいいものの、行く宛がない――その時にエリーゼが思いついたのは、デザイートス・アーディンの屋敷の存在だ。
 彼の屋敷へ赴いて、半ば強引に、エリーゼと子供たち、そして子供たちを護衛するエリーゼが雇った冒険者たちは彼の屋敷に上がりこんだ。

 その屋敷でエリーゼたちは奇妙なものを見つけた。
 隠された通路。それは迷宮に似て非なるものだった。
 屋敷の主であるデザイートスすら知らなかったその場所には、失踪したと思われていた彼の母の亡骸があった。
 その場所の名前は――勇者の霊廟。
 かつて勇者――つまり母アイリスが仲間を弔うために作ったと言われる墓だった。

 この墓はどうやら父アラルドの魔族の力によって作られているようで、この墓で亡くなったと思しいデザイートスの母親の亡骸は魔族の力に影響を受け魔物と化していた。

 そこにはデザイートスの母親の亡骸以外にも存在している者がいた。
 エリーゼにより真実を知らされ怒り狂い、アールジス王国の守りを消滅させた旧守護精霊ジスが、最奥に置かれた棺と共にいた。その棺にはジスが愛した初代王ジスタルが眠っているという。
 ジスが言うには、そのジスタル王の息子に、デザイートスが似ていると言う。

 昔を懐かしんだジスは、気まぐれに滅びゆくアールジス王国に一つの希望を残した。
 怒りに任せて現王家から剥奪した王位をデザイートスに与え、デザイートスの母親の亡骸に力を与えて新たな守護精霊とした。
 分不相応な地位に畏れ慄くデザイートスを匿うことを条件に、ジスはエリーゼにバターレイの子供たちの解放を約束した。

 目的を果たしたエリーゼは、バターレイの子供たちと、フィンと一緒にアールジス王国から逃げ出そうとしたけれど……母アイリスに引きとめられた。
 すべてが終わり、そして始まる夜が来る。
 最後の晩餐は盛大に行われた。
 上座にはかつて魔王に次ぐ力を持つ魔族だった灰色の黒が座り、妻である元勇者に尽くした。
 下座にはアールジス王国の現王が座り、ハイワーズ家の宴を見守っていた。
 千年を生きた元勇者アイリスは子供たちに別れを告げ、エリーゼもまた母に別れを告げる。

「あなたがいたら壊れてしまう世界なんて、滅んでしまえばいいのよ」

 アイリスは娘に穏やかに許しを与えると、かつて魔族アラルドと交わした約定のため、魂を奪われ瓶詰にされた。
 アラルドは子供たちを屋敷に残して永久に去り、後を追うように長女カロリーナも屋敷を後にする。
 次兄ステファンは新しい勇者としての旅に出る。エリーゼもまた、長兄エイブリーと新王デザイートスを屋敷に残し、弟リールを連れて旅立った。

 すべてが始まる夜が明けると、ハイワーズ家は離散した。








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